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大阪高等裁判所 昭和24年(を)4103号 判決

被告人

山本栄一こと

洪漢守

主文

原判決を破棄する。

本件を神戸地方裁判所豊岡支部に差し戻す

理由

(イ)  職権で調査するに本件は昭和二十四年九月二十二日神戸地方裁判所豊岡支部検察官から原審裁判所に対し被告人に牛皮密輸入の所為ありとして公訴の提起があり起訴状謄本の送達等所定の手続を経て同年十月八日の原審公判期日において右公訴事実につき審理があつた後、検察官より訴因追加請求書に基き密入国に関する訴因の追加請求があり裁判官においてこれを許容しているが、同月十三日の続行期日にはこれに関する何らの手続なくして結審し、いわゆる追加された訴因に対しても有罪の判決がなされている。

しかし本件起訴状記載の犯罪事実と右追加請求書に掲げられた犯罪事実とを彼是比照検討すると、一は被告人の牛皮等の密貿易の所為であつて、他は被告人自身の密入国の所為であり換言すれば、行為自体は後者は被告人自身日本国内への密航であるのに対し前者は財貨を船舶に積載して日本領域内への輸送したことであつて、両者は単に偶々時を同じうして同一船舶を利用して行われたという点に共通点があるに過ぎない。即ち両者は事実上密航即積載という関係もなければ、法律上犯罪構成要件のうえで共通する部分もなく、要するに両行為は全然別個独立の関係にたつものであるから名は訴因の追加といつても事実の同一性を前提とする刑事訴訟法第三百十二条にいわゆる訴因の追加ではなく実質的には別個独立の犯罪行為に対する追起訴たる性質を有するものと解すべきである。然るに右密入国の点については記録上公訴提起に関する法定手続を履践した形跡が認められないから、畢竟判決は違法手続に基きなされたものと認めるの外はない。

(ロ)  なお原判決は被告人の密入国の所為につき昭和二十一年勅令第三百十一号第四条、第二条第三項、一九四六年三月十六日連合軍最高司令官の「引揚に関する覚書」附属書一の七を適用処断しているが、朝鮮人等の密入国取締については日本政府の責任においてなすべき旨指令された結果、昭和二十二年五月二日勅令二〇七号をもつて外国人登録令が公布施行されたのである。

されば本件のような密入国処罰については専ら右外国人登録令に従うべくその範囲において前記勅令第三百十一条は適用を排除されるものと解するのが相当であるから原判決は法令適用にもまた誤あるものといわねばならぬ。

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